社会福祉法人神愛会 特別養護老人ホーム愛の園
標準ケアマニュアル
社会福祉法人 神愛会は、法人が掲げる理念である「キリストの愛を以って互いに仕える」に基づき、また老人福祉法及び介護保険法の理念に従いながら、すべての人が個人として最大限に尊重され、人生の最後の瞬間まで尊厳をもって生きることができるよう、あらゆる努力を継続して一人一人の自律した生活を支えます。また、ユニット型特別養護老人ホームの基本方針に準じ、ご入居者が入居前の居宅における生活と入居後の生活が連続したものになるよう配慮します。
したがって、神愛会で行われるケア方針は以下の通りです。
〇私たちは、ご入居者の入居前の生活を理解し、生きがいをもって暮らせる生活の場を提供します。
〇私たちは、ご入居者の人権と財産を擁護します。
〇私たちは、ご入居者の自己実現がなされるように最大限の援助を行い、社会参加を積極的に推進します。
〇私たちは、ご入居者の援助のため、サービスの質の向上を目指し、日々自己の研鑽に努めます。
〇私たちは、ご入居者に不快感を与える言葉と態度を慎み、ご入居者からの言葉や助言、苦情を真摯に受け止めます。
〇私たちは、ご入居者に提供する入居者本位のサービスが継続して提供されるために、チームケアが必須であることを認識し、良質で効果的なコミュニケーションが図れるようにつとめます。
これらのことを実現するために、愛の園ではユニットケアという手法を用います。自宅に近い居住環境で、利用になる方々の個性や生活のリズムに沿って、また他者との人間関係を築きながら日常生活を営めるように支援します。
独立してプライバシーを大切に保つことのできる個室、ほかの利用者との人間関係を築くことのできるリビング、小グループごとに固定して配置された馴染の職員によって行うきめ細かなケアがその内容です。また、ユニットケアを実践するために、種々の専門性を持った職員が協働していく仕組みを工夫していきます。
食事ケア
≪ 食事ケアの目的≫
・食べることは、栄養を補給し生命を維持するための基本であると同時に、長年培ってきた食習慣を保つことで、その人らしく生きるための自然な願いを実現するものである。
・その人らしい豊かな食生活を送るためには、愛用の器具や食器を用いること、調理の下準備や盛り付け、炊飯や汁物の温めなど家庭で行う食事を再現し、また安全に喫食できるよう細心の注意を払って見守りやケアを行うよう努めなければならない。
≪食事ケアの指針≫
〇 食事は五感で楽しみ、日々の活力となるようにします。
〇 一人一人の能力に応じた、適切な介助を提供するとともに食事形態を最適なものにします。
〇 必ず介助者が本日の食事内容と今から食事ケアを行うことを伝え、入居者の傍らに座るなどして、目線がご入居者より、上にならない様な姿勢で介助します。
〇 一口毎に声をかけてから口に入れ、咀嚼と適切な嚥下を行えるようにします。
〇 良好な嚥下を確保するため、食事中適時水分摂取をしていただきます。
〇 誤嚥を避けるための姿勢に細心の注意を払います。
〇 口腔内残渣物に留意します。
〇 食事中の声かけは、食事内容の説明を行いながら、丁寧に行います。
〇 主菜、副菜、薬をむやみに混ぜたりはしません。
〇 食事終了後は、水分摂取などが行えるように声かけを行い、逆流による誤嚥や窒息が起こらないように心がけます。
〇 食事終了後、口の周辺及び手指の清拭、必要に応じて着替えや車いすの清掃を行います。
〇 喫食量の正確に確認をし、必要に応じて多職種と情報を交換します。
〇 ご入居者の状態や思いを尊重しながら丁寧に下膳します。
〇 ご入居者の生活リズムに合わせた食事時間を提供します。
≪環境を整える≫
入居者 食事前に排泄ケアをすませ、これから食事であることを告げる。
用意するもの おしぼり、エプロンなど。
○ 車椅子、椅子で食事する利用者は咀嚼・嚥下可能な姿勢を整え、椅子に対して深く腰を掛ける。背筋を伸ばし嚥下しやすいよう前傾し、顎を引いた適切な姿勢保持する。必要に応じて良肢位枕等で体幹を固定背屈調整しテーブルの高さを胸の位置に合わせ食事のしやすい状態を整備する。
○ 体調不良などで離床が困難な利用者では、ベッドのギャッジアップ法を利用する。
身体をベッド上方に移動し約90度(入居者によりケースバイケース)ギャッジアップする。頭部、背部には枕や良肢位枕を使い、嚥下しやすく顎を引く状態に合わせる。両膝も山を描くように膝下に良肢位枕を固定し楽な姿勢を整える。必要に応じて側背に良肢位枕を固定し、テーブルを設置(テーブルの角度など確認)しエプロンの使用とお手拭タオルを渡す。
≪身体の状態に応じた食事形態≫
○ 視覚障害がある場合リビングへ誘導後、椅子の背とテーブルに手を触れて座っていただき、声かけをしながら配膳する。手を添えて導き、献立名と位置を説明しながら食事していただく。
○ 片麻痺がある場合は口中の麻痺に配慮し誤嚥に注意する。麻痺側に食事物が溜まりやすいので、一度に口にする量を少なくし、嚥下を確認しながらケアや見守りを行う。介助は麻痺がない側から行う。自分で食事する場合などは、専用自助具や専用皿、箸を使う。咀嚼・嚥下の状態に合わせて、普通食、ソフト食、ミキサー食、また、ユニットで個別に刻んで提供したり、必要に応じて適切にトロミ剤を加える。
≪ 投薬について≫
○ 服薬管理マニュアルによる。
排泄ケア
≪排泄ケアの目的≫
・ 排泄は、身体の正常な営みであり、健康のバロメータとなる。
・ 排泄は日常生活に不可欠であるが、羞恥心を伴うものでありプライバシーに十分配慮しなければならない。
・ トイレで排泄することは、排泄物の臭気や汚染を防ぐとともに、失禁による精神的不快を軽減することに繋がる。
・ 排泄ケアは、利用者がリラックスして気持ちよく安全に排泄できるよう、またQOL向上に繋がるよう努める。
≪排泄ケア指針≫
〇 排泄は個人の尊厳に深くかかわり、健康状態の把握に不可欠であることを理解します。
〇 オムツはADL・QOLの維持、向上のためであり、介護側の都合で使用することをしません。
〇 トイレでのオムツ交換を原則とし、プライバシーの保護には最大限の注意を払います。
〇 生活リズムに合わせ、それぞれの状態に応じた排泄介助を常に模索します。
〇 声かけは、ご入居者の羞恥心への配慮が不可欠であり、命令形にならないようにします。
〇 一つ一つの動作に、必ず声かけをして混乱がないよう安全に留意します。
〇 皮膚状態の観察を確実に行い、性器及び肛門周囲等には特に注意します。
〇 尿・便失禁などで、皮膚が汚染された時には、適切な器具を活用し洗浄します。
〇 排泄量と形状を確認し、記録する際は具体的に記載します。(ブリストルスケールを参考)
〇 排泄後は衣服を整え、ご入居者に手洗いの声かけを行います。
〇 排泄介助は感染防止の観点から必要に応じて専用のエプロンと手袋を着用し、一介助一手洗いの原則に則ります。
〇 汚染された衣類やおむつなどは、エコバックを使用して居室内から持ち出し適切に処理を行います。
≪プライバシーへの配慮≫
排泄は、利用者の尊厳を保つため、プライバシーへの配慮が厳しく求められる。誘導のための声掛け、ケア用品の用い方、介助後の汚物の処理などがさりげなく行われるよう、それぞれの手順において特別の注意と配慮をもって行われなければならない。
≪排泄ケアの手順≫
○環境整備
A 便座の温度が適温か、便器周辺の汚れがないか、ペーパーの残り数を確認する。
B 排泄に集中できるよう、トイレのドアを閉めプライバシーを確保する。
C 排泄後の臭気等のため、換気、脱臭に配慮する。
○必要物品の準備
A 利用者に応じた排泄用具を準備する(各サイズの尿とりパッドやリハビリパンツ等)
B 清拭布、トイレットペーパー、洗浄用ポンプ等。
C 皮膚洗浄剤、石鹸、塗り薬等。
○誘導
<トイレを使用する場合>
排泄サイクルを確認した上で尿意、便意の確認を行う。プライバシーのため、声掛けは自尊心に充分配慮し、他者に伝わらない程度の声の大きさで、幼児語等を使用せず適切に声かけを行う。歩行可能な利用者は、見守り又は手引き誘導にてトイレへ誘導し自力でズボンや下着の着脱可能な利用者は自力で行って頂き便座に座っていただく。車椅子を利用されている利用者は便座の傍で立位バーを持ち、起立しやすい距離に車椅子をつけ、ブレーキをかける。両足をフットレスから降ろしフットレスを上げる。健側の手で起立バーを持って頂き、膝が伸展した状態になるように声かけを行い、起立していただく。ズボンを、下着を上げ下ろしが困難な場合は介助にて行う。
1. せかさずゆっくりとした気持ちで排泄していただく。
2. 自分でできるところはしていただく。
3. 座位保持が困難な利用者、歩行不安定な利用者の排泄は、その場をはなれず、さりげなく見守る。必要物品がいる場合は他職員に依頼する。
4. 利用者の体調が悪い時は無理をしない。
<ポータブルトイレを使用する場合>
麻痺等の有無を確かめる。在宅での環境と、出来るだけ同じ環境にポータブルトイレを設置する。カーテン、ドアによるプライバシーの保護をする。必要に応じて介助カバー、ベッド柵、立位バー等をセットし排泄ごとに回収し、洗浄する。また適時、ポータブルトイレを洗浄する。また、ベッドサイドに設置の場合はベッドへの昇降や、排泄後の処理が困難である利用者は、コールを押して頂き、ケアする。トイレを使用する場合と同様のケアである。また、夜間は足元がふらつき、転倒の危険性があるため、頻尿の利用者は頻回に巡視する。足元に衝撃吸収マットやセンサーマットなども必要に応じて設置する。
<おむつを使用する場合>
おむつの種類・・・布おむつ、おむつカバー、リハビリパンツ、紙おむつ、尿とりパッド、安心パンツなど。各サイズに留意し利用者の排泄に応じたものを使用する。
尿意、便意がなく時間が明確でない場合と、1回の量が多く体調不良などで臥床時間が長い利用者は布おむつを使用する。臀部の皮膚の状態に応じて紙おむつやパッド類を使い分ける。夜間は安眠のため吸収量の多いパッド類を使用する。定時にパッド交換を実施し陰部や臀部を洗浄清拭する。
1. 必要物品の準備。エコバッグ、清拭布、洗浄用ポンプ、使い捨てビニール手袋、エプロン(ガウン)等。
2. ベッド上でおむつ交換を行う。
3. プライバシー保護のため、必ずドアを閉める。
4. 利用者により布おむつ、紙おむつ、尿とりパッド類を決める。
5. 声掛けをして、確認と了承を得る。
6. 衣類を最小限度に脱ぎ、露出部を少なくタオルや毛布で隠す様な状態にする。
7. 臀部や露出部の皮膚の状態も観察しておく。
8. 排泄物を確認と観察し手早く洗浄ポンプで洗い流し、清拭布で洗浄する。洗浄用ポンプの湯は微温湯にて洗い流す。(必要に応じて石けんを使用し泡にて洗浄を行い、お湯で丁寧に洗い流す。)
9. 利用者に身体全体左右、交互に向いて頂き、臀部の下から新しいおむつに摺りかえる。交換時は陰部を新しい布おむつで覆い隠すようにすばやく行う。
10.布おむつは縦布から陰部にかけて陰部に余裕が残る程度に当てる。次に横布にて右側から左側へとややV( ブイ)の字を描くよう腹部がきつく締まらないよう当てる。
11.着衣しシーツ類、衣類を整える。
12.おむつ交換が終了した事を告げ、体位交換が必要な利用者は続いて体位交換を行う。
13.排泄表に時間と排泄内容を記録する。
<尿器類を使用する場合>
尿意があるが、トイレまで行けない時に使用する。また、男性用尿器と女性用尿器に分かれる。
1. 女性等、ケアが必要な利用者はコール対応などで介助に努める。男性の場合はベッドサイドに常時、準備していてもよい。(但し使用していない時は布などで隠しておく)
2. 身体を動かせる範囲や程度を知っておく。(臀部を臥床状態で上げられるのか、座位が保てるのか、腹圧がかけられるのか、後始末ができるのか等)
3. 自力でできる利用者はして頂き、廃棄のみ介助する。
<特殊な尿器の場合>
バルンパック、ストーマ増設などがある。看護職員との連携と指示により取り扱う。
○ 観察
<便>
1. 回数、臭い、色、硬さ、量、血液の付着の有無などを観察する。いつもと違っていないか、黒い便ではないが、きちっと消化された便であるかなどにも注意する。
2. 排便時に痛みがないか、肛門周辺の傷口がないか、外因的要素も見逃さない。
<尿>
1. 回数、臭い、色、混濁、血液の有無などが重要となってくる。
2. 排尿時の痛みの有無も確認する。
<排泄異常時の対応>
1.
尿失禁したからといって安易におむつを使用しない。
2.
失敗した時は手際よく始末し、失敗したことをとがめる言葉や態度をとらない。
3.
尿意がある時はすばやく対応する。
4.
失禁の時間帯をすばやく排泄記入表へ記入する。
<便秘予防>
1.
随時・定時にトイレに座り排便を試みる。
2.
水分を充分に飲用できている。
3.
野菜類、豆類、芋類、食物繊維物を摂取できる。
4.
毎日、適度な運動ができている。
5.
腹部を「の」の字を描きゆっくりマッサージする。
6.
腹部の冷えなどの確認(必要部位に対してゆたぽん使用し温める)。
7.
足浴施行(日中、夜間臥床前)
8.
オリゴシロップなどの特定保健用食品の対応
入浴ケア
≪入浴ケアの目的≫
入浴は@身体の清潔を図り、精神的、肉体的に苦痛と緊張を緩和すること。A安全、清潔、快適な入浴により利用者に生きがいと再起の意欲をもたらすこと。B健康で安らかな生活を営むことを目的とする。
入浴による衣類の着脱は自立支援を目的として、利用者が自力で可能なところは自分でできるよう支援する。
≪入浴ケア指針≫
〇 入浴は清潔の保持と新陳代謝の促進だけでなく、日々の生活の楽しみであることを認識し、それぞれのご入居者に合った入浴を提供します。
〇 入浴前には必ずそれぞれのご入居者に必要な物品などの準備を確実に行い、介助者がひと時もご入居者の傍を離れることのないようにします。
〇 更衣・入浴の一連の介助では、常にプライバシーに留意し、この介助で起こりがちな混乱を最小限にできるように丁寧に声かけをします。
〇 ご入居者の健康状態把握に注意を払い、身体的変化や異常、たとえば内出血や湿疹などの皮膚の状態に対し、ケアチーム間の情報共有を確実に行います。
〇 ご入居者への声かけは強制や指示・命令とならない様に配慮し、介助動作についても声かけにより、安全確保と危険防止に留意します。
〇 入浴中は、会話をしながら雰囲気作りを心掛けます。
〇 入浴終了後は、衣服を整え、必要に応じて爪きりなどの整容を行います。
〇 ドライヤーによる整髪時は温風による火傷などに注意します。
〇 入浴後の水分補給を確実に行い、それぞれの状態に応じた休息を提供します。
≪入浴可否の判断≫
発熱時、血圧が高い時、体調がすぐれない時は看護職員により入浴の可否を判断する。その他、心疾患の有無や心肺機能の状態や皮膚の状態等、疾患がある場合は入浴の順番など、事前に検討しておく。
≪入浴事前の注意事項≫
着脱時の異常に注意し、皮膚疾患や傷、バルンカテーテル留置者等、医療的要因がある利用者は事前に看護職員による処置を行う。
≪浴室準備≫
1. 浴室、脱衣室の室温をエアコンにより調整する。(夏季は24度〜26度、冬季は25度〜27度)
2. 浴槽内の湯の温度を確認する。(38度〜40度程度)
3. シャワーチェアーや、シャンプー、石鹸、洗身タオル、洗面器、入浴剤、ドライヤー、くし、爪切り、ビニール袋、汚れ衣類入れ籠、ゴミ袋、浴室用洗剤等の準備。( 次回分の石鹸やシャンプー等の量が確保されているか確認する)
4. 着脱室のマットを敷き、バスタオル、衣類を準備する。手すり等、適当な位置に設置されているか確認する。
≪入浴者の確認≫
1. その日の入浴者を、又は中止者を確認する。
2. 入浴する旨を利用者に伝え、必要に応じて排泄ケアを済ませておく。
3. 本人の意思を確認し浴室まで誘導する。
≪入浴ケアの手順(リフト付き個浴)≫
○ 個浴は、誘導から入浴・着衣まで、マンツーマン入浴を基本とする。
○ 脱衣
1. 入浴する直前に脱衣する。入浴までに間がある場合は、バスタオルなどで身体を保護する。
2. 麻痺がある利用者は注意し、ゆっくりと健側より脱衣する。自力で着脱が可能な利用者は自立を目的に残存機能を充分生かしたケアに心がける。
3. 皮膚の弱い利用者は患部に注意しながら脱衣する。
4. 腕時計や眼鏡等は職員が責任をもって預かり貴重品入れに保管する。
5. 脱いだ衣類は名前やポケットの中を確認してから所定の籠に入れる。
6. 浴室内は滑りやすく脱衣所との温度差もあるので、見守りや手引き誘導歩行にて浴室まで安全に誘導する。
○ 洗身、洗髪、洗顔
1. シャワーの湯をケアワーカーの腕にかけ温度を確認する。
2. 利用者に、これから湯を掛けることを伝える。抹消部より徐々に掛け、湯の温度が適切か利用者に確認を得てから全身へと掛ける。
3. 身体が冷えないように頻繁にかけ湯を行い、耳を手で覆っていただくか耳栓を使用し、声かけをしてから頭部にシャワーをかける。
4. シャンプーを適度に手にとり泡立ててから髪全体に延ばし、爪を立てず指の腹で洗う。頭皮に傷や湿疹がある場合は充分配慮し事前に位置などを確認しておく。
5. シャワーでシャンプーや洗顔時の泡を充分すすぎ、泡がなくなるまで洗い流す。必要に応じて2回洗髪行程を繰り返す。
6. 乾いたタオルで顔・髪の水気を取り除き、目の周辺・耳裏に泡が残っていないか確認する。
7. タオルに石鹸、又はボディソープでよく泡立てる。背部より洗身して頸部、顎下、胸部、腹部、両上肢を洗身し、手の平や甲、指の股まで丁寧に洗う。麻痺等で手指が拘縮している場合は、力を入れずケアワーカーの指を用いて丁寧に洗う。一度シャワーで泡を洗い流してから下半身の洗身に移る。
8. 下半身では座位を維持したまま両大腿部、膝下、膝裏、脛部を順序よく洗い、シャワーで洗い流す。
9. 立位が可能な利用者は起立バーを持って頂き、起立していただく。起立バーを持つ時は滑らないよう両手指をよく洗い流す。
10. 腰の周辺から、やさしく臀部全体を洗い、肛門部にタオルを侵入させる。後ろから、陰部、鼠頸部の順で前方からも洗う。男性の場合は陰茎部もよく洗っておく。また、座位時に隠れていた、大腿部の裏面や膝の裏も洗う。
11. 全体の泡をシャワーで洗い流し、シャワーチェアーに深く着座していただく。
12. 続いて全体にシャワーをかけ足関節から足裏や足指を洗い、指股はしっかりと洗う。この時に爪が伸びていないか等、確認をとっておく。再びシャワーでよく洗い流し、陰部や鼠頸部、乳房裏等に泡が残っていないか確認する。
○ 入浴後
1. 浴槽から出る時はしっかり腕や肘・腋下を支え、足元を安定させてからかけ湯を行う。洗面器2杯程度、肩よりかけバスタオルに身体を包みこみ、脱衣所まで誘導する。腰を下ろしバスタオルで水気を充分取り除き、露出部は冷えないよう、常時、バスタオル等で保護しておく。
2. あらかじめ、準備しておいた衣類を着衣し、ドライヤーで髪の毛を乾かし整髪する。身体に保湿剤を塗布し必要な利用者は爪切り、髭剃りを行う。また看護職員による傷口の消毒や処置を施す。
3. 顔色や呼吸など状態の観察を行い、自室誘導してから少し多めの水分補給をする。
≪臥位浴での入浴≫
臥位浴は、座位保持や立位保持が困難な利用者、半寝たきり状態や寝たきりの利用者の入浴に適しているが、利用者自身、自ら自動運動が困難なこともあり身体の各部の関節可動域や体幹、姿勢を観察、修正しながらケアに努めなければいけない。
また、臥床式浴槽は、利用者にとってケアワーカーに全身を委ねる入浴となり大変、不安感の大きい入浴方法であるため、安心感を与える声掛けや態度で接しなければならない。
入浴手順や、準備する物はリフト付個浴浴と変わりはないが、臥位浴用ストレッチャー上での洗身や、自室から浴室までのストレッチャーの移動を伴う。
○ 移動
1. 自室ベッドに移動用ストレッチャーによりケアワーカー2名で伺う。
2. これから入浴である事を事前に伝えておき、今から浴室に行く旨を伝え確認と了承を得て必ず2名でストレッチャーに移乗する。移乗時はストレッチャーのブレーキは必ず確認しておき、移乗が済めば、全身をバスタオルで覆う。ブレーキを外し、足側を前方に浴室まで誘導する。誘導中はケアワーカー2名のうち、1名が下半身部左側に付く。左側の手でストレッチャーを持ち、右手で下肢(膝の辺り)を支え舵取りしながら誘導する。もう1名は頭部に付き、両手でストレッチャー上部を支え、利用者の顔色等を観察し話しかけながら、ストレッチャーを押す。段差等に注意しながらゆっくりと誘導する。
○ 着脱
1. ストレッチャー上で介助にて脱衣する。露出部はバスタオルで保護し、冷やさないように配慮する。陰部にはタオルを当てるなど羞恥心に配慮する。
2. 声かけ確認してから臥位浴用ストレッチャーに2名で移乗介助し浴室まで誘導する。
○ 洗身、洗顔、洗髪
1. シャワーの湯をケアワーカーの腕にかける等、温度確認をし下腿から上半身へかけ湯を行う。
2. 洗髪、洗顔では耳栓が確実に出来ているか確認してから、頭部全体にかけ湯を実施する。
3. 洗身の為、利用者は臥位浴用ストレッチャー上で右往左往、交互に体動しなければいけない為、不安感が大きい。よって声掛けとケアワーカー側がしっかりと両腕で支持することが大変重要な時点である。その他、洗身は一般浴と同じ手法である。
4. 胃ろう増設者や、経管栄養者、バルンカテーテル留置者等は、患部や留置部へ事前に医療処置を施しておき感染予防や患部への保護を確認しておく。
○ 浴槽内
1. 予め浴槽内に湯を張り入浴直前に湯の温度確認をとり、臥位浴用ストレッチャーを臥位浴槽にセットしてから、ブレーキをかけスイッチを押し降下させる。利用者に湯の温度の具合を聞き、水や湯の加減を行う。
2. 浴槽内では浮力が発生する為、安全ベルト2本をしっかりと腹部と大腿部周辺に固定させる。必要時は安全バーを設置して両手でしっかりと握っていただく。
3. 入浴中はタオルで余分な泡などを擦り落として、つま先や背部をマッサージするように優しく擦る。ケアワーカーは常時臥位浴槽右サイドに付きそっており、顔色や様子を観察しておく。また、顔を乾いたタオルで拭き、目やになどに注意し整髪する。
○ 入浴後
1. 浴槽を降下させ、臥位浴用ストレッチャーを湯面上に位置し、洗面器2杯程度のかけ湯を行い、バスタオルで身体の水気をとり保護する。
2. 脱衣所に誘導してドライヤー、着衣などを行う。
3. 自室に誘導し水分補給に努める。
○ 浴室の片付け
1.
ストレッチャー、シャワーチェアー、浴槽内、洗面鏡、手すり、床、すべり止めマットを専用洗剤で洗う。
2.
カビ等の繁殖予防のため換気扇を使用して浴室・脱衣所の換気を行う。
3.
ゴミを分別し所定のゴミ置場で処理する。
4.
介助用エプロン・介助用スリッパ等を消毒する。
5.
掃除用、洗剤や、シャンプー、石鹸類を補給する。
≪プライバシーへの配慮≫
○ 入浴は身体の清潔と、リラクゼーションを得ると共に日々のストレスを発散する機会である。一般や健常者であっても他者の前で裸体をさらすことはストレスである。要介護者にとっても同じ気持ちであることを意識して介護に望まなければいけない。入浴の場がストレスを感じる場となっては本末転倒である。
1. 脱衣所までの誘導後、ドアや仕切りがきっちりとしているか確認する。
2. 男女の時間による区別の体制が整っている。
3. 自力で脱衣が可能な利用者は、遠目でさりげなく見守る。自力で困難な利用者は今から脱衣する旨を伝え、了承を得てから着脱介助する。
4. 上半身より衣類を脱いでいき、露出部は必ずバスタオル等で身体を覆い冷え予防と羞恥心に配慮する。臥位浴では露出部や陰部に必ずタオルで覆い保護してから浴室内に誘導する。
5. 浴室内では、かけ湯直前までタオルで露出部を覆い、声かけし了承を得てからタオルを外す。
6. 浴槽入浴後、洗面器2杯程度のかけ湯を行い、直ぐにバスタオルで全身を覆う。
7. 着脱室移動後は水気を充分ふき取ってから露出部に配慮して着衣にあたる。
8. おむつの使用者はおむつや紙おむつで着用するまで陰部をタオルで隠す。
口腔ケア
≪口腔ケアの目的≫
○ 食べることや話すことは、生活の基本行為である。高齢者の口腔内は、老化により唾液の分泌量が減少し、生理的な自浄作用が低下してくる。口腔内は細菌で汚染され、唾液を誤嚥した際に肺炎を引き起こす原因にもなるため、毎食後の口腔ケアにより歯・口腔の健康を維持し、QOLの向上を目指す。 @虫歯や歯周疾患の予防 A誤嚥性肺炎の予防 B口臭の軽減と予防 C味覚の改善 D摂取機能や嚥下機能、発語機能の改善等であり、又、歯を健康的に丈夫に保つことは、食物摂取による咀嚼機能を高めると同時に、内臓への負担を軽減するほか、外見的なイメージについても若々しい印象を他者に与え、外交的な生活を送られQOL水準を高める作用もある。
≪必要物品の確認≫
歯ブラシ、コップ、歯磨き粉、義歯ケース、口腔ケア用品、タオル、うがい薬等。
≪洗面所の準備≫
1.
洗面所が清潔に保たれているか、床が濡れていないか等確認する。
2.
適度な温度の湯がでるか確認する。
≪口腔ケアの基本と全般的な注意事項≫
○自立した利用者の口腔ケア
ケアワーカーの手の清潔に心がけ、専用手袋を使用し利用者の残存機能を考慮した口腔ケアを実施する。椅子や車椅子の利用者は姿勢を適度に保ちカランに手が届かない場合は介助にて行う。
1.
口腔内をぬるま湯ですすぎ、残査物を取り除くとともに口腔内に潤いを与える。
2.
歯ブラシに歯磨き粉をつけて前歯より縦向きに上下左右、小刻みに交互にブラッシングする。ブラシ圧は利用者が痛く感じない程度とする。奥歯までブラシを行き届かせ、歯裏、歯間、歯茎や舌も忘れないよう3分から5分程度行う。必要があれば歯間ブラシや糸楊枝などを用いる。
3.
ぬるま湯にて充分口腔内をすすぎ、空ブラシにて再度ブラッシングを行う。
4.
口腔内を確認し口腔付近を乾いたタオルで清拭する。
○ 義歯のある利用者
1.
上下義歯がある利用者は、下顎から外し続いて上顎を外す。部分床義歯は残存歯の生えている方向に金具を指にて丁寧に外す。
2.
義歯洗浄は義歯用ブラシを用いて全体を注意深く、破損などないか確認しながら流水で洗う。※歯磨き粉は研磨剤が入っているものがあり、義歯の不具合を発生させるため、専用の磨き粉
を使用するか、浸置用義歯洗浄剤を用いる。
3.
毛先が柔らかいブラシを用い歯肉および、舌、口腔内の食物残渣を取り除く。必要あればうがい薬にて殺菌洗浄する。
4.
洗浄後、義歯を上顎より装着し下顎を装着する。部分床義歯の場合は金具が残歯に性格に装着され歯肉と接触して傷にならないよう注意する。
○ 義歯、残歯がない利用者
1.
舌の表面や歯肉をブラッシングする。
○ うがいのできない利用者(誤嚥の危険性)
1.
口腔ケア用品を使用する。
2.
唇の裏や歯肉、残歯、頬の裏を拭き、口腔内の残渣物を除去する。
3.
痰を取り除く。
4.
口腔ケア用ジェル(リフレケア)を使用して口腔内を殺菌する。
○舌の清掃
1. 舌がよごれている利用者は舌洗浄専用ブラシを用いる。
2. 乾燥している利用者は、ぬるま湯を絞ったもので湿らせてから行う。
○ベッド上で口腔ケアを行う場合
ベッド上で口腔ケアを行う場合は姿勢に配慮する。ベッド上では身体が不安定であるため、下顎の引き具合などに注意し水分を含ませた時は誤嚥に注意する。
○ 義歯の保管
1.
個人所有の義歯、口腔ケア用品は、細菌などの繁殖予防のため充分乾燥させてから個室に保管する。
2.
終日義歯を装着している利用者以外は、就寝前に義歯を外し蓋付きの容器で洗浄剤を使用して保管する。
○ 口腔ケア用品の洗浄
1.
コップや歯ブラシをバケツに入れ、熱湯と消毒薬を混合し浸けおき、その後熱湯で洗浄する。
2.
よく乾燥して所定の場所に保管する。
体位交換
≪目的、効果、意義≫
寝たきりから身体を起こすことは、褥瘡や廃用性症候群の発症を防止するとともに、視野を広げ意欲が高まるなど精神面の効果大きい。
@
同一体位でいることによる苦痛を和らげる。 A圧迫による障害を予防する(血行障害、疼痛、間隔麻痺) B体位を組み合わせて気分転換を図る。 C間接の拘縮を予防する。 D四肢の浮腫を予防する。 E肺の拡張を促進する(体位交換により、吸気量の少ない部分に空気を満たし肺の拡張を促進)
≪体位交換の基本≫
身体の仕組みをうまく利用して、最小限の力で動作を行う。
1.
要介護者を動かす時は、基底面積を小さくする(両腕を胸の上に組むなど)
2.
介護者の支持基底面積を広く保つ(足を肩幅程度に開く)
3.
腰を落として重心を低くし膝の屈伸運動を利用する。
4.
腰を落とし背筋を伸ばした状態で膝を伸ばしながら立ち上がる(動力の中心は、ほぼ第2腰椎の位置にある)
5.
密着するとより安定する(手を伸ばした状態より抱えるように移動する)
6.
身体全体に力を配分する(一ヵ所の筋群に力を集中させるとケアワーカー自身が動けない)
≪予防用具を適切に活用≫
@
エアーマット、 Aクッション(良肢位枕やビーズ枕など)
B無圧マット Cタオル
≪全般的な注意事項≫
@
高齢者は皮膚が弱く骨折しやすいことを考慮する。
A
麻痺や拘縮がある箇所は特に注意する。
B
腕は身体の下敷きにならないように注意する。
C
動かす前は必ず声かけをし、不安を与えないようにする。
D
シーツ、衣類のしわを伸ばす。
E
ベッド柵にかかとや肘、手、足が当たらないよう注意する(座布団やクッション、フレームカバーを利用する)
F
体位交換後はしばらく様子をみて、不都合がないか確認する。
G
密着している部分はクッションなど挟み通気を確保する。
H
頭が低すぎたり首が不安定にならないよう注意する。
I
側臥位ではクッションを抱えると楽な場合もある。
J
体位を変える際は身体がベッドの中心になるようにする。
K
摩擦を少なくする(無理に引っ張ると褥瘡の原因になる)
≪体位交換≫
A.
平行移動(同一肢位のままで左右移動)
1.
上半身の移動
a.
位置を変える側に立ち要介護者の膝を立たせ腕を組ませる。
b.
首の下から手を差し入れ、反対側の肩を持つ。もう一方手は腰のくびれに差し入れ、手前に引き寄せる。
2.
下半身の移動
a膝の下から手を差し入れ、反対側の腰を持つ。もう一方の手は腰のくびれに手を差し入れ手前に引き寄せる。
b足をゆっくりと伸ばし、組ませた腕を戻す(大柄の人は臀部を抱える)
B.
仰臥位から側臥位
@
要介護者の下になる腕を軽く上げ、上になる腕は胸の上に置く(麻痺側は上になるようにする)
A
手前の足を少し引き、反対側の足は膝を立てる。(膝を立てることが出来ない場合は、麻痺側を非麻痺側の足の上に乗せ組むようにする)
B
膝と肘を軽く持って静かに手前に向ける。
C
肩と腰の2点をしっかり支え手前に半回転させる。
D
介護者の後方に回り、腰のくびれに手を差しいれ、腰を少し後ろに引き「く」の字に軽く曲げ、上半身を安定させる(不安定な場合はクッション等を利用する)
E
要介護者を向けた側に移り、頭部を支えて枕を移動する。
C.
上下に動かす(中心移動)
@
枕を外し頭の上方におく
A
要介護者の膝を立て、介護者の右手を首の後ろに回し、左手を腰のくびれに通して上方に移動させる。(可能であれば、要介護者の両手を介護者の首に組ませる)
B
頭を支え枕をあてる。
C
二人で行う場合は要介護者の肩と膝に介護者それぞれの手を入れ、二人の呼吸を合わせて移動させる。
移乗・移動ケア
≪目的、効果、意義≫
日々の生活の中でベッドから離れて過ごす時間は、寝たきりを防ぎ、廃用性症候群や二次的合併症を予防するため重要である。
離床の第一歩は座位、立位に始まり、移乗動作が安定して行えればトイレや車椅子、座席など様々な場所に移動でき、行動範囲を拡大し、ADL能力を向上させる。
≪移乗動作ケアを行う前の環境調整≫
1.車椅子とベッド、椅子などの位置
脳卒中による麻痺や骨折がある場合には、その部位の反対側(健側)から移乗することを基本とする。
2.移乗する場所の座面の高さ
一般的な座面の高さは39cmから40cmであるが、本人が座ったままでかかとが着く高さが理想とされる。
座面が低いと座る時の衝撃が強く、脊椎に負担をかけてしまう恐れがある。また、座面が高い場合にはうまく座ることができずにずれ落ちてしまう危険性がある。
これらのことに注意して、座面の高さの調整や介助を行い動作時の誘導や指導を行う必要がある。
3.体幹前屈と重心の前方移動スペース
人間は、立ち上がる際には必ず身体を前屈させて、重心を移動させることで臀部が持ちあがる。移動の際にも同様に前方のスペースが必要となる。確保するスペースは、約50〜60cmが理想とされる。
健康管理
≪健康管理項目≫
A.日常
1.観察(随時)
日常的な変化を観察して健康状態を把握する
⇒顔色・肌色・視線・声音・発汗・歩行・発語・食欲・むせ・便・尿・痰 等
2.聞取り(随時)
日常的な会話を通して健康状態を把握する
⇒気分(嘔気)・痛み・掻痒感・
3.測定(定時・随時)
客観的なバイタル値を測定し健康状態を把握する
項目 |
頻度 |
担当者 |
医療職への報告を要する状態 |
血圧 |
1回/月 |
看護 |
最高血圧160〜90mmHg以外
または 最低血圧90mmHg以上 |
脈拍 |
1回/月 |
看護 |
平常値からの極端な変動 |
体温 |
体調変化の訴えに応じて随時 |
看護・介護 |
35℃以下
または 37.5℃以上 |
呼吸 |
看護・介護 |
12〜20回/分以外 嚥下障害 連続した喘鳴 呼吸困難 (努力呼吸・肩呼吸・下顎呼吸・無呼吸) |
|
SPO2 |
看護・介護 |
90%以下 |
|
顔色等 |
看護・介護 |
チアノーゼの出現 |
|
排尿・便 |
看護・介護 |
多量の血尿・血便 |
|
その他 |
看護・介護 |
連続した嘔気 嘔吐 激痛 転倒 痙攣 吐血 創傷(出血が止まらない) |
B.緊急時
「主治医等への連絡体制に関する指針」による
接遇マナー
≪高齢者施設における接遇マナーの基本≫
1. 新人職員であっても利用者・利用者の家族・外部の方からは愛の園の職員の一人として見られる。愛の園のイメージを損なう言動は謹むこと。
2. 利用者には最大限の敬意を払って接すること。戦争を経験しながらも今日の社会の礎を築いた利用者は、尊敬に値する方々であることを理解する。
3. 利用者の人権の擁護とプライバシーの保護には最大限の注意を払うことがマナーの基本。
4. 利用者を「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ばず、姓に「さん」をつけて呼ぶことを基本とする。要望があって親しみを込めて名前を呼ぶこともあるが、基本的な人間関係のできていない新人職員は必ず「さん付け」で呼ぶ。
5. 誰に対してもその日初めて顔を合わせる時は、午前中は「おはようございます」、午後は「こんにちは」と爽やかに挨拶する。基本的な挨拶やコミュニケーションが持とうとすることは職場の第一歩である。
≪身に着けるべき接遇マナー≫
「あいさつ」
接遇マナーの基本は、「あいさつに始まり、あいさつに終わる」といわれます。あいさつは「挨拶」と書きます。本来、挨拶の「挨」は「ひらく」、「拶」は「せまる」という意味があると言われています。つまり、「心を開いて相手に迫る」という挨拶が全ての接遇マナーの基本であるとともに、関わり合う人が相互に心を開いていることが、人間関係の中で最も重要だと言えるでしょう。明るく笑顔で挨拶するということは、ご入居者やご家族に対する気配り、心遣いの現れなのです。
●挨拶をめぐるポイント
・最初に気づいた人がすぐ声をかける
・目が合ったときは、常に「挨拶」「会釈」「声掛け」を実践する
・職員間のあいさつも心を込めて行う
「おはようございます」・・・・・・朝の挨拶・10時ごろまで 「いらっしゃいませ」・・・・・・・お迎えの挨拶 「お待ちしておりました」・・・・・お迎えの挨拶 「失礼いたします」・・・・・・・・訪問時、入室・退室時 「いつもお世話になっております」・お礼 「いってらっしゃいませ」・・・・・お見送りの言葉 「お帰りなさいませ」・・・・・・・お迎えの言葉 「お疲れさまでした」・・・・・・・ねぎらいの言葉 「お先に失礼いたします」・・・・・退社時 「ありがとうございました」・・・・お礼、感謝の言葉 |
●マナーに活かしたい七つの心
一 「おはようございます」という明るい心
二 「はい」という素直な心
三 「すみません」という反省の心
四 「私がします」という積極的な心
五 「ありがとうございます」という感謝の心
六 「おかげさまで」という謙虚な心
七 「お先にどうぞ」という譲り合いの心
接遇マナー その2 「言葉づかい」
●敬語
丁寧な言葉使いは、丁寧な介護の源となり、反対に、乱暴な言葉使いは、乱暴な介護の源となるという事です。言葉づかいの基本は正しい敬語です。あなたは、次の誤った表現を正しい敬語に直すことができますか。
誤 |
正 |
@あす、うちの施設に来ていただけませんか? |
@明日(みょうにち)うちの施設にお越し頂けますか? |
Aこっちから行きますのでちょっと待っててください |
Aこちらかうかがいますので少々お待ちください。 |
Bお名前は何と申されますか? |
B失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいですか? |
C(外部の方に対して)施設長は今日はお休みです。 |
C申し訳ございません。本日○○はお休みをいただいております |
Dそちらでよろしかったですか? |
Dそちらでよろしいですか? |
E相談員は今いませんので、私が聞いておきます。 |
Eあいにく、相談員はただいま席をはずしておりますので、私が承ります |
Fお客様がおっしゃられたように |
Fお客様がおっしゃいましたように |
G10時にお伺いさせていただきます |
G10時に伺います |
Hどうぞお召し上がりください |
Hどうぞ召し上がってください |
I了解です |
I承知いたしました/かしこまりました |
J市役所の○○様が参られました |
J市役所の○○様がいらっしゃいました |
Kあそこで伺ってみてください |
Kあちらでお聞きください |
Lさっきの伝言は見ていただけましたか? |
L先ほどの伝言はご覧になりましたか? |
Mはい、わかっております |
Mはい、存じ上げております。 |
Nあとで、見させていただきます。 |
Nのちほど、拝見いたします。 |
O私が行かせていただきます。 |
O私がうかがいます。 |
●声の表情
ご利用者・ご家族さまに対する声の表情により、プロの介護職員としての品格と礼儀が伝わります。
@語尾をあげない、強く言わない。伸ばさない。
Aスピードは、ややゆっくり目の方が、上品で安心感を与える。相手の話すスピードや、うなづきの速さを目安にします。
B音量は、守秘義務、相手の自尊心を受け止め、プライバシーに配慮する。大きな声を出さず、ご入居者・ご利用者・ご家族の側で話しかける。
C高齢の方に対しては、低めの声でゆっくり話す。耳の遠い方には、筆談での対応も取り入れます。
D子供さんの来訪者に対しては、高めの声でゆっくり話す。短く、分かりやすい言葉で伝えます。
●クッション用語
使用するシーン |
具体例 |
ものを尋ねる |
・差し支えなければ ・失礼ですが ・ご迷惑でなければ ・おうかがいしたい(教えていただきたい)ことがあるのですが |
依頼する |
・恐れ入りますが ・お手数おかけしますが ・ご面倒でなければ ・ご都合がよろしければ ・お忙しいところ申し訳ありませんが |
断る |
・あいにくですが ・せっかくですが ・ご意向に添えず ・申し訳ありませんが |
改善してほしい |
・説明が十分ではなかったかもしれませんが ・私どもの説明不足だったかもしれませんが ・言葉が足りなかったかもしれませんが |
援助を申し出る |
・お力になれることがあれば ・私にできることがあれば ・もしよろしければ |
「身だしなみ」
アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが1971年に提唱した法則で、相手に与える影響として発せられるメッセージよりも、その際の表情や口調の方が強い影響をもつというものです。具体的には言語情報(話の内容)は7%、聴覚情報(声の大小、トーン、質、口調)は38%、視覚情報(表情、服装、髪型、身振り)は55%となります。
ですから、あなたの印象は第一印象で決まるという事になります。そして事業所(施設)の印象も職員一人ひとりの身だしなみで決まるという事にもなります。
●身だしなみのチェックポイント
・髪の毛は長ければきちんと束ね、男性にあっては寝ぐせや無精髭がないようにします。 ・いつも清潔で体格にきっちりと合った制服を着用し、だらしない雰囲気にならないようにします。 ・動きやすく滑らない安全な靴(上履き)をキチンと履きます。 ・ナチュラルで明るい印象の化粧を心がけます。 ・アクセサリー類はつけません。 ・匂いの強い香水(香料入り洗剤・柔軟剤で洗った衣類も同様)はつけません。 ・品格のある言葉遣いを意識し、ご入居者やご家族に不快感を与えないようにします。 |
●身体を整えると連動して心が整う〜アンガーマネジメントの視点から〜
@深呼吸する(体中に酸素を行き渡らせリラックス効果がある) A表情を変える(笑顔を作ることでポジティブな気持ちになる) B所作をていねいにする(美しい身のこなしは、見る人だけでなく自分の気持ちも清らかにする) C言葉づかいに気を配る(言葉は思考を具現化するもの) ※ 丁寧な言葉遣いと美しい振る舞いでご入居者も職員も穏やかに過ごすことができる |
「立ち振る舞い」
施設スタッフのより良い姿勢は、双方向のコミュニケーションをはかる上でとても大切です。もちろん、話を聞く姿勢や相づちなども重要なコミュニケーションスキルですが、まずは立ち振る舞いを意識していきましょう。
●立ち振る舞いの基本
目を合わせる
|
日頃から自分から目を合わせるようにします。また目線の高さを合わせることも話しやすさのポイント。 |
目が合えば笑顔をみせる |
目線があった時に前歯が見える程度に笑顔をみせることを気がける。 |
無意識な時に笑顔(口角をあげている)がある |
ご利用者様は、職員が仕事中に見せる無意識の表情ほどよく見ています。人と会話をしていない場合も口角を挙げておく癖をつけることが大切。 |
スタッフ間での会話が丁寧 |
職員同士にも良いコミュニケーションがはかれている人はご利用者様も声をかけやすい。 |
何気ない会話ができる
|
ご利用者様と日常の何気ない事を楽しむことが大切。職員は日々忙しく過ごす訳ですが、一言でも言葉かけを行うことが求められます。 |
●ご入居者に対する適切な呼称と態度について
接遇マナーの徹底が求められる介護施設の職員が、ご入居者に対して適切な呼称を使えないということは、人権意識が欠如しているということにほかなりません。そのような対応しかできない職員は「親しみを込めてそう呼んでいます」と言うでしょう。そもそもその考えが間違いです。ご入居者はペットの犬や猫ではありません。人格を持った人間であり、私たちの大先輩であり、私たちが運営する施設にご入居されているお客様でもあるのです。 また、不適切な立ち振る舞いや呼称はご利用者と施設スタッフの1対1で完結するものではなく、その周りにいるご利用者やそのご家族、職員などに少なからず悪い影響を及ぼします。ご利用者は強い屈辱感に苛まれることはもちろん、ご入居者のご家族は「なぜこんな施設に入居させてしまったのか」という後悔と嫌悪、職員同士では「なぜあんなケアしかできない人と一緒に働かなければならないのか」という嘲笑と嘆きの感情が必ず生じます。 もし、不適切な呼称しか使えない職員がいるとしたら、その者は介護施設の職員には向いていません。私たちの施設のみならず、介護の現場で働くべきではないと考えます。適切な呼称を使いながら普段のケアを行うことは難しいことでしょうか。自身の言動について再確認してください。 |
2022年4月1日改定版